はじめに
Trimora株式会社は2025年5月に設立した、AI活用のWeb制作・動画制作を行う会社である。設立から10ヶ月が経った現在、社内には6つのAIチームが稼働している。
本記事では、なぜ創業初年度に「AI組織」を設計したのか、各チームにどのような役割を持たせたのか、その設計思想と構築の過程を記録として公開する。
なぜ人を雇う前にAI組織を作ったか
創業期の経営者にとって、最大の制約はリソースである。やるべきことは多い。動画制作、Webサイト構築、営業、見積もり、契約書、マーケティング、法務チェック——これらを一人で回すのには限界がある。
ここで「人を雇う」という選択肢がある。しかし創業初年度は売上の見通しが立ちにくく、固定費の増加はリスクになる。もう一つの選択肢として考えたのが、「まずAIで組織の骨格を作る」というアプローチだった。
これは「AIで人を置き換える」という発想ではない。組織として必要な機能を先に定義し、AIで動く部分と人が担うべき部分を切り分ける作業である。経営学で「機能別組織」と呼ばれる設計原則を、AIエージェントで先に実装したアプローチと言える。
この判断には3つの理由がある。
- 機能の可視化が先: 組織図を描くことで、自分が一人で何役を兼ねているかが明確になる。「職務の分化」を意識的に行うことで、ボトルネックが見える
- 採用判断の精度が上がる: どの機能がAIで十分で、どこに人の判断が必要かを見極めてから採用すれば、ミスマッチが減る
- スケーラビリティの確保: AIチームは固定費ゼロで24時間稼働できる。売上の変動に対して柔軟に対応できる体制が作れる
組織設計の全体像
当社のAI組織は、CEO(経営者)の下にCOO(統括AI)を置き、その下に6つの専門チームを配置する構造である。
CEO(石野 / 最終判断・承認)
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COO(統括AI / タスク振り分け・成果統合)
│
├── クリエイティブ(制作)
├── セールス(営業・案件管理)
├── マーケ(発信・調査)
├── ストラテジー(経営戦略・財務)
├── ガバナンス(品質管理・法務)
└── トリア(自律実行・量産)
ポイントは、経営者が各チームに直接指示を出すのではなく、COO(統括AI)が窓口となって振り分けるという設計である。これにより、経営者の認知負荷を下げながら、複数チームの並行稼働が可能になる。
6チームの役割と設計思想
クリエイティブ — 「作る」を担う
動画制作、Webサイト構築、HTML資料、自動化ツールの開発を担当する。当社の売上に直結する制作機能であり、最も稼働頻度が高いチームである。
設計上の判断として、「初回設計・新規テンプレートの作成」はクリエイティブが担い、「量産・バッチ処理」は後述のトリアに委ねるという棲み分けを設けている。これは制作品質と効率のバランスを取るための分離である。
セールス — 「売る」を支える
案件管理、見積書・提案書・契約書の作成、パイプラインの更新を担当する。営業活動そのものは経営者が行うが、その前後の事務作業をAIが担うことで、対人コミュニケーションに集中できる環境を作っている。
マーケ — 「届ける」を設計する
ブログ記事の執筆、SNS投稿文の作成、市場調査、競合分析を担当する。本記事もマーケチームが初稿を作成している。
発信戦略として、正本(自社サイト)→ 派生版(note等)という多チャネル展開を行っており、媒体ごとに切り口を変える運用を設計している。
ストラテジー — 「考える」を補佐する
創業融資、事業計画、経営判断の記録を担当する。経営判断を行う際に「背景・選択肢・採用理由・リスク」の4点セットで記録するルールを設け、意思決定の透明性を確保している。
判断の記録を残すことで、振り返りや社内共有がしやすくなり、経営の透明性を保つことにもつながる。
ガバナンス — 「守る」を徹底する
外部向け文書の品質チェック、契約書レビュー、リーガルチェックを担当する。すべての対外文書がチェックを通過してから発信される仕組みを構築している。
ガバナンスチームを独立させた理由は明確で、「作る人とチェックする人を分ける」という内部統制の基本原則を適用するためである。AIであっても、制作と品質管理は分離すべきだと考えている。
トリア — 「回す」を自動化する
バッチレンダリング、コンテンツ量産、定型的な繰り返し作業を24時間体制で処理する自律実行チームである。「対話不要・繰り返し・短時間で完結」するタスクを自動的に処理する。
他の5チームが「判断を伴う仕事」を担うのに対し、トリアは「判断済みの仕事を効率的に実行する」ことに特化している。この分離により、制作チームが量産作業に時間を取られることなく、より付加価値の高い業務に集中できる。
設計で意識した3つの原則
1. 機能分化の原則
機能別組織の考え方を採用した。「何をする組織か」を先に定義し、それぞれに専門性を持たせることで、タスクの振り分けが明確になる。
2. 権限委任のレベル設計
すべてのタスクに3段階の委任レベルを設けている。「実行だけ任せる」「途中判断も任せる」「全権を委任する」の3段階である。これにより、経営者がどこまで関与すべきかの基準が明確になり、属人的な判断を減らせる。
3. 制作と管理の分離
前述のとおり、ガバナンスチームを独立させている。「実行する機能」と「監視する機能」を分離するという、内部統制の基本原則に沿った設計である。
導入の実際 — 段階的に構築する
AI組織は一度に完成させたわけではなく、3つのフェーズで段階的に構築した。
Phase 1(組織図の確定): まず、必要な機能を洗い出し、6チームの役割を定義した。この時点ではAIは1つの窓口で動いており、チームとしての分離はまだ行っていない。
Phase 2(専門チームの実装): 各チームに専門のスキル(実行手順書)を作成し、トリガーワードで自動的に適切なチームが起動する仕組みを構築した。
Phase 3(フル稼働): 全チームが独立して稼働し、経営者が自然言語で指示を出すだけで、適切なチームが自動的に対応する状態を実現した。
この段階的アプローチは、リーンスタートアップの「MVP → 検証 → 拡張」のサイクルと同じ考え方である。最初から完成形を目指すのではなく、動くものを作りながら改善を重ねた。
経営者がAI組織を検討する際のポイント
当社の経験から、いくつかの実践的なポイントを共有する。
まず機能を書き出す。 自分が日常的に行っている業務を、すべて付箋に書き出す。それを「判断が必要な仕事」と「手順が決まっている仕事」に分ける。後者からAI化を検討するのが現実的である。
組織図を先に描く。 「AIに何をさせるか」ではなく、「この会社にはどんな機能が必要か」から考える。機能が定義できれば、人が担うかAIが担うかは後から決められる。
品質管理を独立させる。 制作と品質チェックを同じ仕組みで行うと、チェックが形骸化しやすい。小さな会社でも、「作る」と「確認する」は分けた方がよいと考えている。
段階的に導入する。 6チーム同時に立ち上げる必要はない。まず最も負荷が高い業務から1チーム作り、運用しながら拡張していくアプローチを推奨する。
おわりに
創業初年度にAI組織を設計したことで、一人の経営者が複数の専門機能を持つ組織として動ける体制が実現した。これは「AIを使う」という戦術的な判断ではなく、「組織をどう設計するか」という戦略的な判断である。
この体制が正解かどうかは、まだわからない。事業の成長に伴い、人の採用が必要になる局面は必ず来る。しかし、その時にAI組織が先に動いていれば、「どこに人が必要か」の判断精度は確実に上がると考えている。
本記事が、創業期にAI活用を検討している経営者の参考になれば幸いである。
技術的な詳細は Zenn でも公開しています:一人法人で6チームのAIエージェント組織を設計・実装した話
背景や考え方については note でも書いています:創業初年度に「AI組織」を作った話 — 一人社長が6チーム体制を設計するまで